愛羂(あいけん)



 妖怪横丁から離れているこの家に訪れるのは、なにも猫の少女だけではない。今日は珍しくアマ ビエが彼を誘いに
訪れたのだった。
「え〜?いないのかい、つまらないねえ」
 よく見れば昼日中だというのに、窓も入り口のコモも下ろされている。光の差さない部屋ということ は、中の住人は留守
ということか。
 アマビエは内心がっかりしながらも、とりあえず様子を探ることにしたのだった。


「・・・・やだ!やめて」
 中から聞こえてくる声は、確かにネコ娘だ。誰からか逃れようとするかのような口調が漏れてくる。
<どうしよう・・・!>
 と、口を開きかけたときおもむろにコモが持ち上がった。
「やあ、アマビエかい?」
顔を出してきたのは鬼太郎である。当然家の主なのだから居て当たり前だ。だが、声は彼女のも のしか聞こえなかった
のがどうも引っかかる。そう思っていたけれど、普段どおりの鬼太郎ののほほんと した言い方に、アマビエは少々戸惑
った。
「あ・・・ネコ娘も来てたのかい?横丁へ遊びに来ないか誘いに来たんだけど」
 妙におずおずとした物言いだ、と鬼太郎は思った。もしや、感づかれたか?と一瞬よぎったが、務めて平静を保ったまま
「ごめん、アマビエ。僕は今日はとても忙しいんだ。悪いけど、帰ってもらえるかな?」
「あ、うん」
 下手にこれ以上長居をされては困る。そう鬼太郎は目で伝えてくる。アマビエはそれを察すると、 何とも言えぬ心地で
雑木林の方へ戻っていった。






「さて、と」 
 鬼太郎が呟きながら見た先は、蝋燭の仄かな明かりのみの見慣れた空間である。しかし、ひとつだけ違うのは、決して
他には晒すことのない少女の姿があったのだ。
 鬼太郎が施した淫猥(いんわい)なあられもない躰(からだ)――。悔しげな顔つきのネコ娘へと、鬼太郎は無表情のまま一歩
一歩近づく。
「お願いだから、解いて・・・」
 そう、彼女は身動きの取れぬ束縛をされ、一糸まとわぬ肌を晒していたのだ。天井から琥珀色の縄――要するに鬼太郎
の髪で体を吊るされ、前かがみになりながらもきっと顔をあげた。力を込めようとするが、彼の髪から麻縄の結び目へと妖力が
伝わり、締め付ける縄がそれを拒むかのように、ぐいぐいと胸の輪郭と後ろ手に組まれた手首に食い込んでくる。
 思い切って、猫の爪を出して切り刻みたい。瞬時、妖気を込め目を吊り上げると、目の前の鬼太郎は余裕の笑みを浮かべ
「そんな風に爪を立てないでよ。僕はねずみ男じゃないんだからさ」
 どうして、ここまでするのだろう。そして、何の抵抗も出来ない自分にも苛立つ。ネコ娘は、懸命に身をよじった。
「僕はそういう悔しそうな君の顔を見るのが好きなんだ」
 続けざまにしれっと言い放つ少年の中に、嗜虐的な色を帯び始める。
「あーあ・・・せっかく綺麗に縛れたのになあ。そんなに嫌がるなんてさ・・・」
 大げさにため息をついてみせるのも、故意なのか。ネコ娘は彼の真意が掴めないまま、思い切って訊く。
「ねえ・・・怒ってるの?まだ・・・」
「そうだよ。ひと月も僕を放っておくなんて、許せないね」
「だって・・・忙しかったんだもん。鬼太郎にもそう言ったはずよ!」
「ああ、だから僕の好きなようにさせてくれたっていいじゃないか」
 そうだ、これは君への罰なんだよ――。無言でも怪しく光る隻眼が答えている。
 そして鬼太郎の指が少女の下腹部へと向かい、淡い茂みへと這わせた。徐々にしっとりとした襞の奥へと指先が届くと、
ネコ娘は堪えきれずに小さく喘いだ。
「さっきから濡れてたのか。素直だね」
 と、湿り気を確かめ、したり声で呟く。
「やっぱり、見られるかもしれない・・・って思うと感じるんだ。また誰か来るかもしれないもんな」
 にやり、と口角を上げて言う声音は普段のものとはまるで違う。今までも二人きりで躰を交わしてきたが、こんな彼ではな
かった。
「お願い、鬼太郎。早く縄を・・・」
 もう十分でしょ?と目で訴えるが、まるきり受け流す鬼太郎はくすりと笑った。
「良かった・・・もっと抵抗されたらって思ってたけど、案外従順なんだね、ネコ娘は。やっぱり僕の言うことは何でも聞くんだ
・・・」
 語尾は彼女のごく鼻先へと届き、暖かい唇で塞いでいく。それはしばらく振りの深い口付けだった。
 されるがままでも、鬼太郎の強い舌の動きに次第に息遣いが荒くなる。慣らされた感覚は確実にネコ娘の身に染みこんで
いた。


 鬼太郎はしばらくじっと眺めていたが、ネコ娘の後へ回ると、ぐっと白い太腿を押し広げた。
「きゃっ!」
 驚いて足を閉じようとしたが、強い力でそのまま晒されてしまう。
「やめて、お願いだから」
「綺麗だよ、ネコ娘・・・」
 その声音は恍惚に満ちていて、普段では考えられないような甘い響きがあった。ネコ娘は、内心ひやりとした。この時の鬼太郎は
何をするのか分からない。こうして束縛されている状態で、彼の思うがままにされることの恐怖に似た感情が冷や汗と共に流れ出て
くるのだった。
「僕に見られると、すぐに感じるんだよね、君は。いいよ、その方が楽しいからさ」
 熱の篭もる吐息がネコ娘の秘部へ直接掛かる。それは鬼太郎の唇が触れた証拠。
「やっ、やめ・・・にゃっ!!」
 彼の舌は正確に弱いところを這ってくる。思わず抗おうと両手を動かすが、何もならない。
 それに構わず、あふれ出す愛液の元へ鬼太郎の二本の指がゆっくりと挿入されていく。
「本当はこれだけじゃ足りないんじゃないのかい・・・?」
 そう言いながら、水音を立てる動きが止まらない。彼女を知り尽くした器用さが、羞恥心を煽るようだ。
 この空間に広がる空気を意識すればするほど恥ずかしい。それなのにどうしても感じるままにネコ娘は嬌声をあげてしまう。
 その間にも、不安定な体勢の所為で両膝はがくがくと震え快感と足の痛みを必死に堪えていた。
「ねえ、もういいかな・・・?僕も悦ばせてよ」
 鬼太郎は、はあはあと大きく息を吐くネコ娘の正面へと立った。既に服を脱ぎ捨て、大きく主張する自分自身を臆面もなく見せ付けた。
「鬼太郎・・・?」
 ぼんやりと焦点の合わぬ目で、彼へと向く。その瞬間、うねるように鬼太郎の髪が伸び始めた。妖気を込めた髪は、彼女の頭を捕らえ
口元を屹立(きつりつ)した彼自身へと導いた。

 
反射的に熱を帯びた塊を咥えてしまうが、それは何を求めているのかが分かり、夢中で舌を動かす。
 今度は鬼太郎の番なんだから――と。


 こんなにも待っていたのに・・・。彼女の口腔の滑らかさ、融けてしまいそうだと感じながら、欲していたのに待たされた悔しさの混じる興奮
を覚えながら、自然と体が律動する。
 自分の言うことを素直に聞いてくれるネコ娘の、そんな性格を利用している背徳行為がたまらなく快感を増していくのがはっきりと分かった。
「・・・・・いいよ、ネコ・・・」
 やがて登り詰める意識に捕らえられ、高まったそれを手離した瞬間、ネコ娘の中に精を放出した。





「ご、ごめん!苦しかった?ごめん、ネコ娘!」
 思い切りむせて吐き出す彼女の姿に、やっと正気に戻った鬼太郎は慌てて髪の毛槍で麻縄を切り解放したのだった。
「き、きつかったよ、鬼太郎〜」
 いつもの鬼太郎の声に、泣きそうな声で答える。安堵し、涙ぐむ少女の顔を見て、今更ながらほんの少し後悔していた。
「もう〜!ひどいよ、鬼太郎!なんであんなことしたのよ」
 無理やり脱がせた服を羽織らせていた鬼太郎へ、ネコ娘はぷうと頬を膨らませながら抗議する。
「だって、言っただろ?ひと月もさせてもらえなかったんだから・・・」
「だからってあんなやり方するなんて!」
「ごめん、ごめん。じゃあ、これからちゃんとする?」
 にっこり笑顔を浮かべる鬼太郎に、ネコ娘は恥ずかしげに小さく頷いた。それでも、ひどいよ〜とブツブツ呟く彼女の可愛らしい
表情を見ながら、鬼太郎は密かに再び同じように施してみたいとほくそ笑んでいたのだった。
 
  




                                                                  
     終










                         
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