Happy Calling
啓蟄(けいちつ)も過ぎ、暖かな日が増えてきた今日この頃、妖怪横丁の自称“女の子チーム”はお金を出し合って小旅行を計画していた。
小旅行というだけあって、1泊2日の近場、花の名所巡りをしようということになったのだ。
人間界に明るいネコ娘のアドバイスや皆の希望が固まって、すぐにでも出発しよう!ということになった。
ネコ娘は、もし妖怪ポストに依頼の手紙が鬼太郎の元に来ていたら・・・と気になっていたが、あえて皆の前では口にしなかった。
出発時間前にゲゲゲハウスに寄っておきたい。鬼太郎の顔を見てからと考えてネコ娘は皆に内緒で向かったのだが、あいにく親子で留守であった。
「なあんだ・・・ちょっとショック」
つるべ火も居ない冷え冷えとした部屋を見渡したけれど、しんと静まりかえっている所へ自分の声だけが響いた。
「せっかく、来たのに」
今日の為にとっておきの服を見て欲しかったのに。ネコ娘は名残惜しそうに何度も振り返りながら横丁へ戻っていった。
春らしさにじむの陽気に、晴れ渡る昊(そら)。沢山の人々が集うこの場所は今が一番の桜の色を愛でようと活気付いていた。
横丁の女性陣一行は、さっそく思い思いにそぞろ歩いていた。
「お天気も良いし、来て正解だったねえ」
「本当になあ・・・あ、あっちで桜餅と抹茶を出す出店がある。行ってみようかの」
「ああ、いいねえ!」
お歯黒べったりと砂かけ婆は楽しそうに会話しながらそちらへと向かっていった。
そんな二人を、ネコ娘とろくろ首は黙って見送る。ふとろくろ首は、ネコ娘が心ここにあらず、といった表情を浮かべているのに気がついた。
「どうしたの?ネコちゃん」
傍らにいたろくろ首は少女をの顔をのぞき込んだ。ネコ娘は思いが顔に出ていたのかと思うと、慌てて両手を振って
「な、何でもないの」
アルバイトの関係で離れることはあったけど・・・鬼太郎と別行動の旅行していることに、ネコ娘は内心落ち着かない気分だったのだ。しかも挨拶に行ったのに、留守だったし・・・。
「そう?ちょっと元気ないなって思っちゃったから」
す、鋭い。と、ネコ娘はぎくりとした。しかし、それに構わずろくろ首は嬉しそうに空を見上げながら、大木を指さした。
「ねえ、ネコちゃん。あの桜、とっても綺麗でしょ?私、鷲尾さんに携帯写真送ってあげたいの。悪いけど、この携帯で私を入れて撮ってくれないかしら?」
「いいわよ!おやすいご用よ!」
ネコ娘は二つ返事で彼女の携帯電話を受け取り、可愛らしくポーズをとるろくろ首を撮影してあげた。液晶画面の中の彼女はとても幸せそうだ、とネコ娘は感じながら確定画面を見せると、案の定にこやかに見つめていた。
「本当にありがとう!じゃあ、私もネコちゃん撮ってあげる!バケロー宛に送っちゃえば鬼太郎にも見て貰えるわよ」
「ええ!鬼太郎に?でも、鬼太郎はこういうの感心ないし」
「大丈夫、大丈夫。喜んでくれるわよ」
はしゃぐように推されると、それもいいかもしれないという思いが湧き上がってきた。言われるままにネコ娘はろくろ首に自分の電話を手渡すと、桜の木の下へと立った。
にっこり微笑んで、頬の隣にVサイン。
携帯電話のカメラ部分に視線を合わせた瞬間、ろくろ首がタイミングよくシャッターを押した。
「わ〜ありがと!」
「どういたしまして」
ネコ娘は画面にある『保存』ボタンを押して、ちゃんと保存されているかを確認するとすぐにメール作成画面を呼び出した。
滅多に使わないバケローの持っているメールアドレス。まさか使うなんて!とわくわくしながら慣れた手つきで文章の打ち込みと写真を添付し、作業を終えた。
データ送信。『メールを送信しました』のメッセージを見て、ネコ娘はパタンと蓋を閉じた。
「鬼太郎、どんな反応するかしら?」
一連の行動を見守っていたろくろ首は、笑顔のネコ娘に問いかける。
「もしかしたら、私が帰ってから気がつくかもしれない。でも、それでもいいわ」
機械に疎い鬼太郎がメールを開封してくれるなんて、期待していないけれど。自己満足にしかならないがそれだけで十分だった。
二人は柔らかな風が吹く中をゆったりと歩いた。桜の他に、道を縁取るようにパンジーやビオラが咲き目を楽しませてくれていた。
ここに鬼太郎がいてくれていたら・・・とネコ娘は内心淋しく思いながらも笑顔をたやさなかった。
しばらくして、スカートのポケットの中からくぐもった電子音が響いた。珍しい着信音に、ネコ娘は慌てて蓋の表示を確認し、さらに驚いた。
「バケローからだわ!」
ともかく出てみよう、とそっと開いた携帯を耳に当てた。
「もしもし・・・鬼太郎?」
「バケローが慌てて僕に来たからさ・・・びっくりしたから連絡したんだけど」
受話器を通した鬼太郎の声は、ネコ娘が思っていたよりも近くに感じた。顔を合わせない方が優しく聞こえるのが意外な感覚だった。なんて答えようか、と思った時
「・・・何ともないんだろ?」
彼の不安な声音に、ネコ娘はふふっと僅かに笑い声を上げながらも
「写真添付して送っただけなの。鬼太郎に見て貰いたくって」
「え?」
やっぱり気がつかなかったんだ、と思うと、ネコ娘は鬼太郎らしさに思わず口の端が上がりっぱなしだっだ。
「バケローに言えばきっと見せてくれるわ。でも・・・何か恥ずかしいな」
「そんなことないよ」
間髪入れずに答えてくれる鬼太郎の声は自分のしたことに少しでも楽しみにしてくれているかもしれない、と期待させてくれるように聞こえてくる。
「じゃあ、ね。明日のお昼頃には帰るから・・・お土産、楽しみにしていてね」
「ああ、分かった」
それだけ言うと、さっさと通話が途切れてしまった。時間にしたら1分ほどだ。短い時間の中の会話でもネコ娘にとっては嬉しい気持ちが広がっていく。
「良かった〜!」
「もしかして鬼太郎からなの?良かったわね、ネコちゃん!」
「うん!」
ろくろ首は満面の笑みを浮かべるネコ娘を見ながら、自分の提案がうまくいったことを心から喜んだ。少しでも自分と同じように恋する喜びを知っていて欲しい、と思ったのだった。
明日帰ったら真っ先に鬼太郎に会おう!
ネコ娘は澄んだ青空を見上げてはじめて離れていることの良さを味わっていた。だって、会わない時間が再会する喜びを教えてくれたから。
【終わり】
キリ番リクエストSSです。
大変お待たせいたしまして申し訳ありません。
こちらはキリ番を踏んでくださったtatara様へ捧げます。
もちろんお持ち帰りOKですので、どうぞお好きになさって下さいませ。
本当にありがとうございました!!
閉じてお戻り下さい