【そんなこと、ないよ


「やっぱり、寝てる・・・」
 真っ先に目に飛び込んできた光景。相変わらずだ。
 ネコ娘が昼間にゲゲゲハウスへ訪れてみると、大概ゴロリと横になっている姿を見ることの方が多い。
 鬼太郎は夜間に活動する妖怪相手に戦っているのだから仕方がない。昨日は会えず仕舞いだったから
はりきって来たのに・・・とネコ娘は内心残念に感じていた。

 冬の合間の暖かい日よりであるが、それでも暖房器具の少ない部屋はひんやりとしていた。
 囲炉裏の五徳の中央には家人同様につるべ火がうとうとと眠っている。その様子を見ながら、ネコ娘はひ
とつため息を吐くと、御座の上に座って様子を伺うことにしたのだった。



 ぼんやりと寝息を立てている少年の頭の近くへ視線を落とすと、目立つ一筋の線がくっきりと見えた。気
になって目をこらしてみれば、糸のようにも思える。
「あ、これって・・・」
 冷えた床の上からそっと拾い上げたのは、一本の髪。
 光にかざしたらきっと蜂蜜色に映えるであろうそれは、自分のものではないとネコ娘にはすぐに分かった。
 自分の髪も彼と同じような色をしているけれど、やっぱり違うから。
 
 見つめていると、ふと思い起こす。
 この髪は、鬼太郎の霊気に反応して色々な形に変化する。戦う時には武器にもなるし、綱のように体
を支えてくれる。遠くにいる妖怪を感知するし、地獄の鍵次第ではそれ以上の力を発揮する・・・。

 もし、自分の妖気を込めてみたらどうなるのだろう?

 単純な動機ではあるが、ものは試しともいう好奇心に駆られたネコ娘は、思い切ってぎゅっと目を閉じ髪
を握った。


「どうした?」
 背後から鬼太郎に声を掛けられて、どきりと肩を揺らした。眠っていたと思いこんでいたのに、いつの間に
起きたのだろうか。あんまりにも集中していた所為か、小さな声でも驚きを隠せない。
「な、何でもないにゃ!」
 悪戯を咎められたような気がして、握った手を胸に抱き込んだ。
「来たのなら、起こしてくれれば良かったのに」
「疲れてるんでしょ?無理して起こしたくないもん」
 寝ぼけ眼でこちらを見ている鬼太郎に、言い訳をしているような居心地の悪さを感じながら、ネコ娘は笑
顔で答える。
「ん?」
 彼女の拳の中には何かある。とずいっと不審顔をしながら迫る鬼太郎に、ネコ娘は慌てて身を引いた。
体をひねりながら手元を隠しつつ
「な、なあに?鬼太郎?」 
「髪の毛・・・で何してた?」
 こちらをじっと見ている鬼太郎は、とっさに隠したものが何であるのかすぐに察してしまったのだ。
 こんな時にだけ鋭いなぁ・・・とネコ娘は仕方なくあきらめ、考えていた事を話し出す。
「あのね・・・この鬼太郎の髪にあたしの妖気を伝えたら、伸びたり剣みたいにならないかなあって思って」
 言い終わるや、鬼太郎は片手で口元を押さえ、おかしみを堪える失笑を漏らすと、眠気を吹き飛ばす
かのような笑い声を上げた。
「も、もう!笑わなくてもいいじゃない!」
「ごめん、ごめん!だってあんまりにもおかしくって、つい」
 思った通りの反応をされて、ネコ娘は顔中が恥ずかしさで火照ってしまう。そうするうちに鬼太郎は手の
中にある髪の毛を器用に抜き取った。
「ねえ、ネコ娘。君は料理もしないのに包丁を持ち歩いたりしないよね?」
「え?うん」
「それと同じさ。僕だって戦おうって意志がない限り、髪を使ったりしないんだよ。だから、この髪の毛はただ
の抜け落ちた毛なんだよ」
 そう言いながら、鬼太郎は自分の髪を部屋の角にあるくずかごへと捨てた。
「そっかあ・・・」
「確かに勝手に妖気に反応したりするけどさ。リモコン下駄だって、普段は普通の下駄だろ?」
 言われてみれば、至極真っ当なこと。
 当たり前のことだったのに、鬼太郎だけが特別だと思いこんでしまった故なのだ。
「そうよね、私鬼太郎が何でも出来ちゃうからから、きっとみんなと違うんだって思ってた」
「それを言うなら、ネコ娘の爪だって伸びたり縮めたり出来るじゃないか」
 妖怪としての能力は、個性豊か。ただ自分とは持っているものが違うだけ。
「ネコ娘がそんなこと考えてたなんて知らなかったよ」
「も〜!それ以上言わないで!」
 見透かされたかのように感じられて、ネコ娘は思わず横を向く。
「・・・僕だけ特別だって思われるの、慣れっこだけどね」
 ぽつりと呟く声に、ネコ娘はどきりとした。
 もしかして、傷つけてしまった・・・?
「・・・鬼太郎」
「きっと父さんが色々僕に期待掛けてるから、仕方ないな。別にそれでもいいさ」
 いつもののほほんとした口調に助けられて、ネコ娘はやっと表情を緩め
「鬼太郎、これから出かけようよ?」
「いいよ。ここにいる方が落ち着くし。ネコ娘はどうして来たんだい?」
「横丁に一緒に行こうと思って・・・でも鬼太郎がここに居たいのなら私もここに居てもいいでしょ?」
 会いたいという気持ちがあれば、それ以上の理由なんていらない。
 ネコ娘はこの居心地の良い空間を楽しむように微笑んだ。



 鬼太郎の力は他の誰よりも強くて、時にはその所為で危険な目にも遭う。それでもいつでも懸命に立ち
向かう優しさをこれからも側で見守っていこう・・・とネコ娘は心から感じていたのだった。




                                                   〈終わり〉



          部屋の中に落ちていた自分の髪の毛を拾っていたときに思いついたネタでした。

          鬼太郎が好き!というお題でしたが、ネコ娘からの視点になってますね・・・ orz
          でも、鬼太郎の普段の姿と戦う姿とのギャップがいいかな〜と考えて書きましたvv
          髪の毛槍、好きなんですよv格好良いです!

          







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