理由―わけ―



河の畔で鬼太郎がひとり、のんびりと釣り糸を垂れている。

数分前までゲゲゲハウスでゴロゴロしていたのだが
クリスマスの準備をしに来たネコ娘に邪魔だと追い出されてしまったのだ。
もともとそんな西洋の祭りなど興味は無いが、彼女が楽しみにしているのだから
付き合うのは吝かではない。
もちろんそんな心中は決して口には出さないが・・・

近くにねずみ男の気配を感じる・・・

−−−あぁ・・・煩いのが近付いてきた・・・−−−

鬼太郎がそう思った瞬間、後ろからねずみ男が抱き付いてきた。

「鬼太郎、こんなトコにいたのかよ〜!!お前んちに行ったらよぅ、
 あの猫女の奴、行き成りコレだぜ!!」

チラリと見るとねずみ男の顔にいく筋も引っ掻かれた跡がある。

「またお前が余計な事を言ったんだろう?」

川面に目を落としながら鬼太郎がそう言うと、ねずみ男は鼻息荒く反論する。

「最初に突っ掛かってきたのは向こうだぜ!!
 『アンタの分のケーキも料理もないからね!!』だってよ!
 だからオレも言ってやったんだよ!『そんな猫臭ぇ料理なんぞ誰が食えるか!!』ってな!!
 そしたら行き成りこのザマよ・・・全くあの猫女、凶暴ったらねぇぜ!!」

ねずみ男の話を聞きながら、鬼太郎の横顔に笑みが浮かぶ。
きっとあの家で、イソイソと料理をしているネコ娘を想い浮かべているのだろう・・・
ねずみ男は思い切って聞いてみた。

「前から不思議に思ってることがあんだけどよぅ・・・」

「何?」

そう言いながらこちらを向いた鬼太郎の顔にはまだ笑みが浮かんでいる。
今日はよっぽど機嫌がいいらしい・・・

「まぁ・・・オレとお前は良くも悪くも長い付き合いだろ?
 だからお前のあの猫女に対する気持ちも何となくは分かっちゃうのよ。
 でもよぅ・・・何でその気持ちをあの猫女・・・ネコ娘に言ってやらねぇのか
 そこんとこがイマイチ分かんねぇっていうか・・・」

「なんだ・・・そんなことか・・・」

鬼太郎がクスリと笑う。

「“狩り”なんだよ・・・」

一言ポツリと呟くが、ねずみ男には全くもって意味が分からない。

「はぁ?もっと分かる様に説明しろよ!!」

勿体ぶった鬼太郎の話し方にねずみ男は腹を立てるが、鬼太郎の隻眼はそれを
面白そうに眺めるとゆっくりと口を開いた。

「ネコ娘は猫だからねぇ・・・逃げる獲物を夢中で追い掛けるんだよ・・・
 簡単に捕まるような獲物はすぐに飽きて放り出される・・・そしてまた他の獲物に目を奪われる・・・
 でもだからって、あまり遠くに逃げてはいけない・・・自分には捕まえるのは無理だと分かった途端
 手が届きそうな黒い獲物や蒼い獲物を追い掛け始めるだろうからねぇ・・・
 いつも手が届きそうで届かない・・・そんな獲物でいる限り、きっと彼女の瞳も心も
 このボクしか映さない・・・そう思わないかい?」

先程までの笑みとは違い、鬼太郎の顔には薄い笑顔が貼り付いている。

いつも素っ気なく冷たいと思える程の態度や言葉を吐く癖に
時に信じられぬほどの優しい態度を見せるのは、こういうことか・・・

ねずみ男の喉が上下にゴクリと動いた。

「でもねぇ・・・ボクもいつもいつも獲物でいる訳じゃない・・・
 まぁ、ボクの場合は獲物が逃げ出す隙も暇も与えやしないけどねぇ・・・」

鬼太郎の隻眼が楽しそうに弧を描くが、纏い付く妖気はどんどん闇の色を帯びて行く。

−−−鬼太郎が獲物ではない時・・・その時はもちろんネコ娘が獲物なのだろう・・・ 
この少年の姿をした男は、獲物が自分から逃れられぬように、
少しづつ少しづつ彼女の全てに自分を刻み込んでいるに違いない・・・
それは裏を返せば、この鬼がどれほど彼女に溺れているか・・・ということか・・・

突然鬼太郎の妖気から闇の色が影を潜めた・・・

「鬼太郎ぅ〜!!クリスマスの用意出来たわよぅ〜!!」

二人の背後からネコ娘の声が響いてきた。

「・・・アンタの分もついでに用意したから・・・」

彼女はねずみ男が当然ここにいることを分かっていたかのようにツンとした顔で
そう付け足すと、鬼太郎の傍に置いてある魚籠を覗き

「一匹も釣れなかったの?・・・アンタ!邪魔してたんでしょう!!」

猫化してねずみ男に食って掛かる。

「言い掛かり付けんじゃねぇよ!コイツが下手くそなだけじゃねぇかよ!!」

二人のいつものやり取りに−−−また始まった−−−と、鬼太郎は苦笑いを零した。

「さて・・と・・・ボクは子泣きの処に父さんを迎えに行くけど・・・
 ネコ娘はどうする?」

「私も一緒に行く〜!!」

頬染めそう答えるネコ娘は嬉しそうに鬼太郎の腕に自分の腕を絡めた。

「んじゃ、オレ様は一足先に行って、留守番して・・・」

ねずみ男の言葉が終らないうちに鬼太郎が彼の襟首を掴んだ。

「お前ひとりにするとご馳走全部食べちゃうだろ?
 一緒に父さんを迎えに行くんだ!」

「へい へい。わっかりやしたよ!!」

開き直ったようにそう言うねずみ男が、少し前を歩く二人の姿を眺め
先程の鬼太郎の言葉を思い出していた。

『いつも手が届きそうで届かない・・・そんな獲物でいる限り、きっと彼女の瞳も心も
 このボクしか映さない・・・そう思わないかい?』

−−−お前・・・何がそんなに不安なんだよ・・・
   もうとっくにそうなってるじゃねぇか・・・
   あ〜ぁ・・・結局アレだ。ただのノロケってかぁ?!!−−− 

その後、クリスマスのご馳走の殆どがねずみ男の腹の中に消えたことは
言うまでも無いだろう・・・


            終





              『鬼灯』の秋津様よりクリスマスSSを頂きました!!
              ネコちゃんの頑張りが健気ですね〜vv可愛いvv
              そして鬼太郎とねずみ男の絶妙な掛け合いに長年の友情を感じます。
              ちゃんとネコちゃんのこと想っているんですね〜鬼太郎さんvv


               秋津さま、ありがとうございました〜〜!!

           





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