赤茄
真夏の太陽が照り付ける中、妖怪アパートの裏に作った家庭菜園で
砂掛けとネコ娘がせっせと収穫に励んでいる。
「全く・・・皆がちゃんと家賃を払ってくれさえしたら
こんなコトをせんでも済むのに・・・」
たわわに実った胡瓜やトマトを前に砂掛けがぼやく。
「でも?ぎたての野菜を味わえるなんて、これ以上の贅沢無いわよ。
それにビタミンも豊富だから美人になるかも・・・」
「わしは元から美人だから必要ない!!」
「そ・・・そうだよね!あは・・・あはは・・・」
この自信は一体どこから・・・?内心そう思うネコ娘だが少し羨ましくも思う。
毎日鏡を覗きながら自分も満更捨てたものではないと思うが、
肝心の想い人にそう思ってもらえなければ全く意味がない・・・
−−−この赤茶の髪の毛が悪いのかな?それともこの大き過ぎる猫目・・・?−−−
薄紅色の唇からチラリと見える牙も少し尖った耳も、ネコ娘にとってはコンプレックス以外の何物でもない。
何故なら・・・
鬼太郎の好きな女の子は長い髪がサラサラ揺れて、如何にも守ってあげたくなるような淑やかな子。
どう考えても自分とは真逆・・・
それにひとたび猫化などしたら、裂けた口に鋭い牙、長く伸びた鋼鉄の様な爪、
おまけに大きな眼はつり上がり黄金に光るのだ・・・
「ネコ娘!聞こえておるのか?」
野菜を入れた笊を抱え、もの思いに耽るネコ娘に砂掛けが声を掛けた。
「えっ?何?」
「新鮮な野菜を親父殿と鬼太郎にも食べて貰おうと思ってな。
お前さんが都合が悪いのならわしが持って行くが・・・」
「だ・・・大丈夫!!私が行く!!」
そう言うが早いかヒラリと身を翻すと野菜を入れた笊を胸にネコ娘は走り出した。
「鬼太郎〜、いる?」
ゲゲゲハウス入口の筵を上げネコ娘が中を覗く。
この家の小さな主の姿は無いが・・・
−−−あっ!また寝てる−−−
部屋の中央にゴロリと横になり気持ち良さそうに寝息をたてている鬼太郎がいた。
ネコ娘は彼を起こさないようにその傍らに座った。
鬼太郎の亜麻色のサラリとした髪が時折窓から入る風に揺れる・・・
ネコ娘は少し躊躇った後、その髪にソッと指を絡めてみるが、鬼太郎は起きる気配も無い。
−−−熟睡してる−−−
少し残念なようなホッとしたような変な気分だ。
次にネコ娘は幽霊族独特のヒンヤリしたちょっと薄めの唇を指でなぞってみる。
これは流石に起きるかと思いきや・・・先程と同じ小さな寝息が聞こえるだけだ・・・
それよりも自分の心臓の音の方がずっと大きく耳に響く。
ネコ娘は辺りをキョロキョロと窺うと意を決した様に寝息をたてる鬼太郎の顔に
自分の顔を少しづつ近づけ・・・
「ネコ娘!来ておったのか!」
目玉の親父に声を掛けられネコ娘が慌てて身体を起こし振り向く。
「父さん。お帰りなさい。外は暑かったでしょう?」
今度は鬼太郎の声にネコ娘は固まってしまった。
その声はどう聞いても寝起きの声ではないからだ。
「父さん。ネコ娘が新鮮な野菜をこんなに持って来てくれましたよ」
「おぉ!いつもすまな・・・」
「鬼太郎のバカ!!意地悪!!」
目玉の親父の言葉が終らぬうちに熟れたトマトの様に真赤になったネコ娘が
ゲゲゲハウスを飛び出して行った。
「鬼太郎!お前またネコ娘を怒らせるような事をしたのか?」
「さぁ?・・・ボクは何も・・・」
そう・・・何もしなかった・・・ただ寝てるフリをしてただけ・・・
真赤なトマトに齧り付く目玉の親父の横で鬼太郎の隻眼が愉しそうに弧を描いた・・・・
終
『鬼灯』秋津様のHPで20000hitを迎えられたということで、限定小説を頂いてきましたvv
夏らしい季節感のあるお話ですね(*´▽`*)
ネコちゃんのいじらしいところが見えて・・・鬼太郎ってばもう!(笑)
これからも楽しみに拝見していきますねvv ありがとうございました!!
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